超ロングラン特急!あずさ3号南小谷行に“ただ乗るだけ”
JR全線完乗達成後、私は次の目的地を決めかねていた。
これまでは未乗区間があった。旅に出る予定があれば必然的に未乗区間を目指していた。
それがもうない。
次に乗るべき線がない。
ちょっとした燃え尽き状態だ。
「全線完乗チャレンジ」や「一筆書き切符」なんかは、路線・時刻表・予算などの縛りの中から最適なプランを練り出すパズルみたいなもの。
そのゲーム性もプランニングの楽しみの一つだ。
縛りがなければ、攻略の醍醐味もやや薄れてしまう。
どこに行ってもいい、という自由と引き換えに得た虚無感をどうにかしようと、私は考えた。
なるべくバカバカしい、なんの足しにもならないことをしようと。
1都4県を走り抜ける長距離特急を乗り通す!
特急あずさ3号。
ほとんどの列車が新宿ー松本間で運行される中央線特急「あずさ」で、1日に1本だけ設定されているロングラン特急だ。
早朝に千葉から出発し、終点はJR西日本との境界駅でもある大糸線の南小谷駅。
営業キロ数341.6km、乗車時間5時間5分。
なんにも用事がないのに南小谷。
列車を降りたらそこは南小谷。
「未乗区間に乗るための旅」をする必要がなくなったのに、
また、「列車に乗るための旅」をしようとしている。
スタート地点・千葉へ
今日のミッションはイージーだ。なにしろ、5時間同じ列車に乗りっぱなしでいいのだから。
ただし、最初で最後の難関は、「6:38千葉発」であるということ。寝坊したらアウト。
逆に、6時半に千葉に着きさえすれば、もうほぼミッション達成も同然だ。
朝5時台の総武線快速で千葉へ向かった。
東京から松本方面に行くのに、いったん千葉方面へ後退するという矛盾。
乗った列車は君津行。ここで寝過ごしたら取り返しがつかない。
いや、単に南小谷まで到達する目的であればいくらでも取り戻せるが、今日の目的は1日1本しかない千葉発南小谷行なのだ。
緊張に身を固めて列車に揺られていたが、よりにもよって千葉の一つ手前、稲毛で猛烈な睡魔が襲ってきた。
341キロの旅のはじまり
0551 千葉着。はっと身を起こして素早くホームへ降りる。間に合った。
乗車券は、エリア内乗り放題の「週末パス」を利用。
「千葉から乗った」という痕跡を残すため、改札で途中下車印を押印して頂いた。
そしていよいよ8番線ホームへ。
0638 千葉発
4053M 総武線・中央本線 あずさ3号 南小谷行
E257系 11両編成
千葉駅を発車後、船橋を過ぎても貸し切り状態の早朝列車。
千葉から東京方面へ。日帰り旅行に出発したのに、朝7時台にはすでに生活圏に戻ってくる格好になり不思議な感じだ。窓からは都会の曇った空が見える。旅情はない。
錦糸町から少し乗ってきて、新宿ではほぼ満席になった。
高円寺、阿佐ヶ谷を通り過ぎたあたりで前から車内販売が来た。
車内販売は来月のダイヤ改正で大幅な縮小が決定されていて、特急あずさ内での弁当類の販売はなくなる。
名残を惜しんで、大船軒の鳥めし 900円を購入した。
そぼろ、照り焼き、つくねと鳥づくし。下から覗く茶飯が嬉しい。
塩山あたりで日が差し始めて、だんだんと空に青が広がってきた。
山の中をゆく中央線は刻々と天気が変わる。曇っていても、いつの間にか晴れ間が広がる。
これがあるから中央線が好きだ。
松本で後方2両の指定席を切り離し。
3号車〜11号車までの9両編成となる。
ほぼ満席だった車内にも少し余裕ができた。
車内販売の営業は新宿〜松本までだった。アイスクリーム食べておけばよかったと気づいたのは松本駅発車後だ。
ちょっと喉も乾いてる。まだ1時間近くある。
信濃大町でさらに人が降りた。
ここから先は、一面の雪。
左手に木崎湖、青木湖と湖を見ながら進む。
1143 南小谷着
なにもしていないのに目的地に着いてしまった。いつもはせわしなく時刻表繰ったり、乗り継ぎ時間の合間に駅の探索などしているから、ちょっと拍子抜けだ。
今日の私はただ運ばれていただけである。
なぜか少し申し訳ない気分になる。
小雪の舞う南小谷駅のホームで、引退の迫ったE257系を見る。
ドア横の号車表示には、車両ごとに違うイラストがあしらわれている。
富士山、葡萄、桃、松本城・・・
中央線沿線のシンボルが描かれている。他の路線に転用する時には塗り替えられてしまうのだろう。
南小谷駅前にはバスやタクシーを待つ人がいた。信濃大町で大方の人が降りたと思っていたけれど、結構人が乗っていたんだなと思う。
温泉&ビールでひとやすみ
さて、目的は達成したものの、特にやることも決めていない。
まだ昼前で時間はたっぷりある。
朝からたいして何もしていないけれど、一区切りとして温泉に入って疲れを癒そう。
小谷温泉まではバスで30分ほどかかるが、もっと近くにも日帰り入浴できる施設があった。
駅前から小谷温泉方面行のバスで10分ほどの「サンテインおたり」へ向かう。
窓の外に広がる雪景色をぼーっと眺めていたら、乗り越してしまった。
一つ先で慌てて降車ボタンを押す。
降り際にバスの運転手さんに聞くと、本来降りるべきだった中央橋前バス停までは歩いて10分ほど。
ちょっと距離あるな、と思ったが、姫川に沿って続く道には冬らしい光景が広がっており、これはこれで楽しい散歩になった。乗り過ごしてまで見る価値のある景色だ。
非日常へ誘う入口みたいな空気が漂う洞門。
さっきバスで通ってきた道なのに、歩くと随分印象が違う。
お目当ての「サンテインおたり」に到着。日帰り入浴は600円。
源泉31.8℃の低張性中性低温泉で肌にやさしく、湯あたりしない。
ゆるゆると浸かってリラックス。
食事を利用すると100円引きになるので、迷わず風呂上がりに食事処でビール。
付け合わせの野沢菜炒めが堪らなく美味しい。こういうさりげないツマミがあれば延々と飲んでいられる。
たいして疲れてもいないのにお疲れ一杯。まだ日は高い。なんて贅沢な時間。
なお、この後は普通列車で帰る。体力使うのはむしろ、ここからだ。
(2019.2.23)
※2020.3.11追記
2020年3月14日(土)のダイヤ改正により、運行区間が以下のように変更されます。
あずさ3号 千葉発松本行
あずさ5号 新宿発南小谷行
この変更により、千葉から南小谷まで直通する列車が消滅しました。