旅の終わりは旅情と日常の境目―サンライズ出雲乗車記

山陰旅の締めは、最後の寝台特急・サンライズ出雲に乗って帰京。

「サンライズ瀬戸・出雲」は、現在(2019年7月時点)で唯一、定期運行されている寝台特急だ。
高松行の「瀬戸」と出雲市行の「出雲」は各7両ずつの編成。
東京―岡山間は連結して14両編成で運行している。
下りは岡山で切り離されて、それぞれ高松行と出雲市行になる。
逆に上りは、出雲市発と高松発が岡山で連結し、東京へ向かう。

とにかく乗っていられることが幸せなのだ

東京―高松と、東京―出雲市、乗車距離の差は約150キロ。
夜行列車を楽しむ目的であれば、出雲の方が約2時間半も長く乗っていられることになる。
これを「乗り得」と感じてしまうのは鉄道趣味人の性かもしれない。

また、上りの場合は風光明媚なエリアを夜間に走り抜けてしまうことになるが、サンライズ出雲の発車時刻は出雲市駅18:51だ。
この時刻であれば、夏ならしばらくは日没前の車窓を楽しむことができる。

以前四国に行った時に「サンライズ瀬戸」を利用したことがあるが、「出雲」に乗ったことはなく、淡々と機会を伺っていたのだが、1週間前に何気なく空席照会してみたら、なんと「ノビノビ座席」が空いている!
「ノビノビ座席」とは、いわゆるカーペットカーである。ここは寝台料金がかからず、特急料金だけで乗れてしまうのだ。
サンライズ瀬戸・出雲で一番安い席。ゆえに、すぐに完売してしまう。
そのノビノビ座席が空いているのだ。逃す手はない。
というわけで、「サンライズ出雲に乗ろう」という目的のために急遽、山陰旅を決行してしまった。

乗車前のひとときを存分に楽しむ

日中は一畑電車を乗りつぶし、17時半頃に出雲市駅に戻ってきた。

これから夜行列車の長い旅が始まるので、ワクワク準備を始める。
まずは食糧調達。夕食とお酒とおやつ。

駅弁完売の表示
出雲市駅構内で駅弁を売っている「出雲の国 麺屋」さんの店先を覗くと、「本日の駅弁は完売しました」の札が。
そりゃそうか。この時間に駅弁は残ってないだろうな、とは何となく思っていた。

そうなると、あとは駅併設のセブンイレブンか、歩いてすぐのポプラ。
夜行列車に乗ってまでコンビニ飯はあまり気が進まなかったけど、他に選択肢がない。
悩んだ挙げ句、おにぎり唐揚げセットを買った。なんとなく、旅情感が感じられなくもないギリギリのチョイスのつもりだ。

 

出雲市駅の発車標

乗車準備を整えて改札へ向かうと、2番線から発車する特急やくもが遅れているようだった。
やくもが発車しないとサンライズが入線してこない。発車予定時刻も分からないので待合室でフラフラ待つ。
やくもの表示が電光掲示板から消えたのを見届け、改札を通りホームへ。
2番線にサンライズはまだいない。

 

トワイライトエクスプレス瑞風
代わりに、隣の1番線にトワイライトエクスプレス瑞風が止まっている。
昨日、湯玉駅で列車の窓越しに見たやつがそこにいる。

瑞風 行先表示瑞風と駅名標

ラグジュアリーな高級列車なんていけ好かないと思っていたが、実物がそこにあるとミーハー根性も働く。
近くで見る機会もそうそうないだろうし。瑞風の写真を撮りながらサンライズの入線を待つ。
横に並ぶかなと思ったけど、サンライズが来る直前に瑞風が発車していった。

ノビノビ座席を気楽に堪能する

サンライズ出雲 18:55入線。

サンライズ出雲

18:51発のサンライズ出雲は、13分遅れて19:04に出雲市駅を発車した。

ノビノビ座席

私の座席は、ノビノビ座席。個室ではなくベッドもないけれど、カーペットで横になることができる。
特急料金だけで乗れるお値打ち席だ。
ブランケットもついているし、頭の部分は仕切りで隠れるようになっているから、十分なのだ。

発車後は自分のスペースでしばし設備を堪能する。

ノビノビ座席 窓
枕元?に紙コップが備え付けてある。唯一のアメニティが紙コップというのがなんだか愛らしい。

落ち着いたところで車内探検しつつ自販機でシャワーカードを買った。320円。

シャワーカード販売機

 

19:30 夕暮れ。かろうじて景色が見えるギリギリの時間。

車窓から見える夕暮れ
もう外はかなり暗い。
ノビノビ座席は個室ではないので、すでに休まれている方に配慮し、共有スペースに移動。

19:35 定刻より8分遅れて松江着。

松江駅に停車している瑞風
3号車にあるミニラウンジで夕食&晩酌を堪能していると、向かいのホームにさっき先に発車した瑞風が。
一瞬ホームで並び、サンライズが先に発車する。
隣の席に居た親子のお父さんが、「瑞風追い抜くんだ」と呟く。
私も、内心「よっしゃ!」と思ったのは言うまでもない。

ミニラウンジの側にシャワールームがあるので、飲みながらシャワールームの空き具合をチラチラ気にしつつ、空いたタイミングでシャワー。
先ほど購入しておいたシャワーカードは6分使える。1分1秒無駄にしないよう、先に洗面所でメイクを落として万全の態勢で臨む。
体を洗っている間は止めておけるので、実際は全然余裕だった。

シャワー後はノビノビ座席の自分のスペースに戻りゴロゴロ。
普段は夜になると車窓が見えず退屈してしまうのだが、
夜行列車は時折見える駅のホームの灯りを眺めているだけで旅情に浸ることができる。不思議だ。

窓の日除けを開けたままぼんやり車窓を眺めて、気づいたら寝てしまった。

ハプニングは最後にやってくる

3:44 目が覚めると外は蒲郡。

蒲郡駅停車中
ここでずっと停車しているようだ。
何だろう、と思ったけれど眠気で朦朧としていたので、そのまま寝てしまった。

5:30頃、車内アナウンス。窓の外はまだ蒲郡だ。

蒲郡駅停車中
静岡県内大雨の影響で、豊橋で運転を取り止めるという。
東京方面へは新幹線に振替してくれるようだ。
豊橋到着後、6:40発 ひかり500号に振替乗車となるらしい。

もっとザワザワするかと思ったが案外、周りは静かだった。
みんな淡々と下車支度を始めていた。
私も寝起きでボンヤリしたまま、とりあえず顔だけは洗ってきた。

6:10 豊橋着

豊橋駅に止まったサンライズ
本来はサンライズが停車しない豊橋駅に降り立つ。
これはこれでなかなか体験できないことだ。

新幹線改札へ向かう人々

ホーム階段を上がると、かなりの人が新幹線改札口へ向かっていた。
本来は普通列車で静岡方面へ向かう予定だった人も多いのだろう。
振替乗車で利用できるのは自由席1~5号車。ホームの乗車口に長い列ができている。

★豊橋 0640 → 東京 0813 /東海道新幹線 ひかり500号 東京行
N700系 16両編成

そこそこ座席が埋まった状態で豊橋に着いたN700系。そこからホームの長い列が車内に吸い込まれていく。
普段、この時間帯に東海道新幹線上りを利用することはないので分からないが、もともとビジネス客などでそれなりに利用者が多いのだろうか。

かなり混んでいたが何とか座れた通路側の席。
静岡県内の雨の様子が気になったけど、殆どの席で日除けが下りていて外の様子が見えない。
仕事で移動する人はいちいち車窓など気にしないのだろうか。だけどこうも締め切りでは、昼だか夜だかも分からない。
勿体ない、と思ってしまう。

いつもはどんな長距離移動でも全く退屈することなく存分に楽しむことができる私であるが、
外が見えない、通路も一杯で立つこともできない、とにかく席でじっとしてるしかないという状況では、さすがに「やることがなく、暇」になってしまった。

そして、到着時間が本来の予定より後ろ倒しになったことで仕事に直行しなければならなくなった私には、この新幹線は旅の一部ではなく、混雑した通勤列車に変わったのだった。

(2019.7.23)