赤沢自然休養林・紅葉トレッキングと森林鉄道

台風19号の影響で、特急あずさ・かいじの姿が消えた中央東線。
始発の普通列車で西へ向かい、塩尻で特急ワイドビューしなのに乗る。
あと2日待てば特急あずさが運転再開し、木曽方面へのアクセスが容易になるが、紅葉の見ごろは例年10月中旬頃。すでに散り始めなのだから、来週まで延ばす猶予はなかった。

 

森林浴発祥の地・赤沢自然休養林

赤沢自然休養林は、上松町西部に広がる、総面積728haものヒノキの天然林。
木曽ヒノキが乱伐されるようになった頃から尾張藩の直轄領として厳しく管理されていた。
のち明治時代には皇室の御料林、伊勢神宮の御用材の産地となり、戦後には国有林に指定されている。
江戸時代から手厚く保護されてきた天然林は日本三大美林の一つに数えられ、木曽五木(ヒノキ、アスナロ、サワラ、ネズコ、コウヤマキ)をはじめとした広大な針葉樹林が広がる。

かつて木曽一円には木曽谷の天然ヒノキを運搬するため広く森林鉄道が張り巡らされており、それらを総称して「木曽森林鉄道」という。支線も含め、総延長は400kmを超えていた。
その中の一つである、上松営林署赤沢線の一部を観光路線として復活させたものが、園内を走る赤沢森林鉄道だ。
日本最大規模の森林鉄道であった木曽森林鉄道も、トラック運材の発達とともに次々と姿を消し、昭和50年にすべての路線が廃止となったが、地元を中心に保存を望む声は多かったという。昭和60年に伊勢神宮の御神木伐採で使用されたのを機に、昭和62年に観光路線として復活を果たしたそうだ。

木曽福島駅からバスに揺られて

10:30木曽福島駅着。
やさしい木目の改札脇にペッパーくんがいる。

木曽福島駅 改札

ペッパーくんの横顔

もしも自動改札の脇にいたなら、これほどの違和感は感じなかっただろう。
ペッパーくんの横のホワイトボードには、駅員さん手書きのさわやかウォーキングの紹介があり、ちょっと安心した。

駅前の観光案内所でバスの往復券を買う。
木曽福島ー赤沢自然休養林 往復2800円
木のしおりで、切り取り線から往路・復路の半券を切り取るようになっている。

ヒノキのしおりがバスの切符

 

赤沢自然休養林行のバス
駅前のバス停で待っていると、やってきたのは御岳交通のバス。
乗客は自分の他に、おばちゃん1人と親子3人。
たった3組を乗せて出発したバスは、上松駅を経由した後、ほどなく勾配に入る。
かなり高度が上がってきて耳がツンとする。
バス幅ギリギリの蛇行した山道を登る。車窓に流れる渓流や紅葉が美しい。

赤沢森林鉄道に乗車

約45分で赤沢自然休養林に着く。
バス停から少し登ったところに森林鉄道乗り場があった。すぐ側には森林鉄道記念館がある。

乗り場入口

赤沢森林鉄道は、園内を走る遊具のような扱いのため、片道乗車がない。
森林鉄道記念館~丸山渡停車場までの往復2.2km、約25分が一回の乗車となる。
ただし、往路のみ乗車して、復路を歩くのはOK。逆に、復路のみの乗車はできない。

乗車案内

乗り場のそばの窓口できっぷを買う。
森林鉄道記念館―丸山渡停車場、往復で大人800円。

木製のきっぷ

きっぷは厚さ5ミリ程度の小さなヒノキの板。乗車日の日付印を押してくれる。
森林鉄道記念館の駅にはスタンプがあり、これがきっぷのサイズにピッタリなので、きっぷの裏に押す。

駅の中にも待合スペースがあるけれど、外には当時の客車を利用した待合室が。

客車を利用した待合室

待合室の中

 

近づいてくる列車の音に誘われ、乗り場へ。
ホームに入線してきた列車は、約5分の停車時間に機関車の付け替えを行う。
転車台がないので、往路は逆向きとなる。

トロッコ列車

車内

トロッコ列車は5両。
「あすなろ」「こうやまき」「ねずこ」「さわら」「ひのき」と、木曽五木の名前がついている。

12:30、森林鉄道記念館を発車した列車は、ゴトゴトと進んでいく。

車内から見える景色

車内から見える景色

主にヒトを運ぶために敷かれた線路ではないからか、かなり粗野な乗り心地だ。
渓流に沿って森林の中を抜ける約10分。あっという間に終点の丸山渡停車場に着く。

丸山渡停車場
ここでも約5分停車し、機回線を使用して機関車の付け替えが行われる。
丸山渡停車場からの乗車は不可のため、ここから新たに乗り込む人はない。また、後発の列車に乗ることもできない。
帰りも乗って帰ろうか迷ったけれど、紅葉見ながら散策して戻ることにして、停車場をあとにした。

紅葉の世界に迷い込む

赤沢自然休養林には8つの散策コースがあり、その中の「ふれあいの道」というバリアフリーの遊歩道が、ほぼ線路に沿って通っており、片道約1.4kmと手頃である。
ここから分岐する、もうちょっと手ごたえのあるコースに行ってみようと思ったが、前日までの雨で道がぬかるんで滑るのでやめた。

「ふれあいの道」は、舗装道と木道で整備されている。赤沢自然休養林の散策コースの中では、もっとも人工的なルートだ。
それにも関わらず、木道の柔らかな雰囲気が風景に馴染んでおり、山の中の知らない道を冒険するようなワクワク感がある。
赤や黄色に染まった林の中をどこまでも続く木道は、どこか別の世界に連れて行ってくれそうな幻想的な雰囲気だ。

ふれあいの道

ときどき、傍らに現れる線路を、森林鉄道がゆったりと走ってゆく。

赤沢森林鉄道

静かな森の中、時折、駆ける列車の音を聞きながら紅葉狩り。

赤沢自然休養林の風景

どこか現実離れした幻想的な世界に浸って戻れなくなりそうな時、列車の音でふと我に返った。

(2019.10.26)