試合終了のブザーが鳴るまで―ちりとてちん杯反省会
今年で2回目の出場となる、「ちりとてちん杯女性落語大会」。
去年は初めての参加で勝手がわからず、しかも緊張で何もかもままならなかった。
だが今年はすこし気持ちに余裕がある。着替えは出番までに終わっていれば良いし、予選会場には持ち時間管理用のデジタル時計があるのも知っている。
東京から米原まで夜行バス、そこから北陸本線、小浜線と乗り継いでやってきた。ダイヤの関係で受付開始時間よりかなり早く着いたので、スーパー銭湯で夜行バス旅の疲れと汗を流し、ゆっくりめに会場入りした。
出場者は100名弱。予選は3つの会場に分かれ、10~11名ごとに仲入りを挟む3部構成だ。
私の出番はかなり後の方だったのでまだまだ着替える必要もなく。
ただ、会場にお客様が入る前に自分の予選会場を下見しておこうと、第二会場に向かった。
・・・なんと。
第二会場は会議室。だだっぴろい部屋の真ん中に机で囲われたエリアがあり、その中にイスが4列、真ん中には通路。これが後ろまで続く縦長の客席。
・・・まるでバスだ。観光バスだ。
落語の会場としてはなかなか珍しいレイアウト。
そして審査員席は一番後ろ。高座に上がってみたけど遠いわ遠いわ・・・。かなり声を張らないと。
もし最前列に審査員席があったらそれはそれで、唾がかかるんじゃないかと余計なことが気になって集中できないけれども。
さて、この日の私の演目は「真田小僧」。
何の改作もしていない生粋のピュア真田小僧だ。なお、時間の都合でショートバージョンだ。
さらに、予選の持ち時間8分に合わせて最初の部分を削ってキュッと凝縮した。稽古では7分におさまっていた。もうちょっと時間たっぷり使ってもいいかな、という感じだった。
ところが。
ちりとてちん杯予選、私の結果は
タイムアップ。
やっちまった・・・。
出来不出来は、ここまで積み上げてきたリアルな自分の実力だから今更どうにもならないし納得がいく。
けど、時間調整は何とかなったのではないか。
稽古の時点で時間に収まっていたから予測は出来なかったけど、気を配っていれば対策はできたはずだ。
ふと時計に目をやって、時間をかけすぎてしまったことに気づいた時には残り時間が1分を切っていた。時すでに遅し。
もうちょっと早く時計を見ていれば。
実はタイムアップした原因には心当たりがある。
アドリブで、たった一言台詞を足してしまったのだ。
稽古では1分以上余っていたのだから一言くらい大丈夫だろう、むしろその方が時間が余り過ぎなくていいかも、などとその時は思っていた。
稽古でやってないこと、本番でいきなりやってはいけない。
まさにサゲの台詞の途中で「ブーーーー」とブザーが鳴り響いた。
そのブザーの音が0.3秒ほど聞こえたところで頭が真っ白になり、一瞬硬直したあと、一礼して高座を降りた。
あまり覚えていないが、座布団はちゃんと返した気がする。それくらいは、かろうじて頭が働いていたようだ。
制限時間オーバーで減点となったことよりも、変な所で途切れた気持ち悪さ。
落語のサゲはサラっと言い切ると気持ちいいけど、寸止めはモヤモヤする。
あとで、サゲの言えなかった部分の時間を計ってみたら、約2秒だった。ブザーより短い。
・・・ブザービーターできたんじゃなかろうか。
ふとそんな思いが頭をよぎった。
注)ブザービーター
バスケットボールでは、終了のブザーが鳴る前に空中に放たれたシュートがリングに入った場合、有効となる。
(2019.9.21)