熱気が人を動かす瞬間―それぞれのゴール裏

サッカー観戦をする時、どこで観るか。

熱いサポーターが集う、ゴール裏の自由席。
俯瞰で全体を把握することができ、スタジアムによっては屋根も完備されているメインスタンド・バックスタンド。

私の場合は、主にゴール裏に居ることが多いが、かといって一択というわけでもない。
ガンガン応援したい時はゴール裏なのだけれども、腰を据えてゲームそのものをじっくり観るならメインやバックに軍配が上がる。
値段も違うが空気も全然違うので、目的や気分によって使い分けている。

さて、スタジアムの中で、個人的にとっても気になるゾーンがある。

ゴール裏の心臓部、応援の中心地では、巨大な旗がはためき、鳴り物が響き、90分間絶えることなく飛び跳ね、声が枯れるまで叫ぶ。席はびっしりとチームカラーで埋め尽くされ、統率の取れた応援で選手を鼓舞する。スタジアム中、最も熱いゾーンだ。チャントやコールの指揮はここを中心になされている。
一方、自由席エリアの両端は、比較的おとなしかったりする。ゆっくり見たいファミリーなどがお弁当を広げ休日の午後を楽しんでいる。座席に余裕があるゲームでは、このあたりは人口密度が低く、立ち上がったり、コールしたりする人は稀だ。

自由席に入場し、端から端まで歩いてその温度を確認していく。

気温分布の色分けに例えると、ひときわ熱い応援の中心地が30℃の「赤」。
端っこのまったりしたエリアが10℃の「青」。
そしてその中間には20℃前後の「黄」にあたるゾーンがある。
ここが、面白いのだ。

試合開始前のこの黄色ゾーンは、熱い応援をしたい人と、ゆっくり見たい人が半々くらいといったところだ。
全員が平均的に20℃の熱量で観戦しているのではなく、25℃の人と15℃の人が混在しているので、個人間では10℃くらい温度差がある人々が混ざり合って座っているのがこのゾーンの特徴だ。
自由席では、立ち見は禁止されていない。もちろん、座って観るのもOKだ。
座ってご飯とか食べているお客さんの間にぽつねん、ぽつねんと立ち上がって声を張り上げている人がいる。
周りがどうだ、とかではない。応援したければ応援する。ご飯食べたければご飯食べる。
もうこの時点で、ここに来ているそれぞれの目的、楽しみ方が明確だ。ぐるりと見まわしてみると、みんなやってることはバラバラなのだけど、とにかく今この空間を楽しんでいるのは分かる。

試合が始まっても各々それぞれの方法で楽しんでいる。
立って声を張り上げている人は相変わらず手拍子を打ちチャントを歌い、すぐ隣には宴会組、仲間内でワイワイ盛り上がっている人もいれば、座って黙ったままじっとピッチを見つめる人もいる。しばらくこの状況が続く。

だが、一瞬で空気が変わる瞬間が訪れる。

自チームにチャンスが訪れた時。
セットプレーの息を飲む瞬間からの、見事なゴール。
前後左右の観客と思わずハイタッチ。

ここからだ。

隣で座ったまま、ずっと静かにピッチを見つめていたおじさんが、低い声で歌い始めた。
前の席で酎ハイ片手に飲み会の算段をしていた大学生グループが、腕を高く振り上げコール。

なんだろう。この、さっきまでバラバラだった観客が一体になる瞬間。
これが最高に気持ちいいのだ。

ゴール裏で最初から最後まで一体となって、途切れることなくずっと歌い、飛び跳ね、応援し続ける。
それは本当に素晴らしいことだ。
だけど、この「一見別々の方向を向いているように見えた観客が、試合の空気に呑まれ熱狂していく」
これって、各々の内側で自然に湧いた衝動だからこそ、とっても人間的で心が躍るのだ。

誰に言われるでもなく、歌いたい、この声を届けたいという思いから発せられる声援こそ、本物ではないか。

メイン・バックからだって、歌いたくなったら歌ってもいい。叫びたくなったら叫んでもいい。
そういった自然発生的な熱気が伝播していく中に身を任せてみるのもなかなか、心地よいものだ。